そして、
 だれもいなくなった
 

 


2008年3月。 主(ぬし)を、うしなった家はがらんとしていた。

これからどうなるのか、家は行き先を失ったような戸惑いを見せた。

戸惑いはわたしたちも同じだった。

もう、父と母がここに帰って住むことはない。

兄は両親の引き受けで精一杯だろう。

築三十五年の一軒の家を整理する。

祖母の代から続いた土地を守ってゆく。

それが、どんなに大変なことかを今、目の当たりにしていた。

まるで夜逃げでもしたかのように、家具やモノが日常生活のそっくりそのまま残っていた。

押し入れやタンスは「捨てる」ことを知らない世代の両親が溜めたモノにあふれている。

庭はこれから、いっせいに植物が目覚めようとして待ち構えている。

裏山は人が通れないほどの草木で生い茂っている。

片づけようにもどこから手を付けていいのかわからない。

主がいなくなった家で取り残されたわたしたちは、呆然としていた。  

つづく