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2007年、十一月。 突然、父が白血病と診断された。 手術も抗がん剤治療も受けないと、余命三か月だと宣告された。 弟も兄も白血病で失った父は抗がん剤治療を断固として拒否をした。 母は大腸癌で人工肛門になり、肝硬変をわずらい、高血圧で、癌の再発のおそれもあった。 父と、特に母は、この大きな家を持てあましていた。 父が発病した十一月に、両親はわたしの住む小さなマンションに共に住むことになった。 四人暮らしの始まり。 最新式のシステムに慣れない母。 どんなに不便でも広い家に帰りたがった父。 嫁いだ娘の家に住むという事実を、どうしても昔かたぎの父は受け入れられなかった。 娘に迷惑をかけずに、なんとか自分たちの力で、出来る限り生活をしていきたい。 それが、両親の望みだった。 そんなときに、持ちかけた兄の提案。 「うちの団地は高齢化し、老人用の部屋が出来はじめたんだ。俺たちが住むすぐ近くに部屋を見つける から、上京して来ないか?。」 その団地はかつて退職した父と母が「一度、ちがう土地に住んでみたい」と言って十三年間、暮したな じみの団地だった。 母はすぐ、その提案に乗った。 便利でコンパクトで、すぐ近くに兄一家と、介護士の仕事をする孫が住 んでいる。 なによりじぶんたちの力だけで生活できることが理想だった。 父だけがその提案に苦しんでいた。 |
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つづく |