|
||
|
ネットを開通させた。 これでここで仕事ができる。 寝室のベッドを動かし、居間のキャビネットを移動し、 貼ったばかりの障子も美しい和室に、フローリングカーペットを敷いてしごと場をしつらえた。 相方は電話線を天井に這わせ、LANケーブルを延ばして環境を整えてくれた。 書斎の完成だ。 窓から見える緑が雨に濡れて、みずみずしく輝いている。 真下は道路なので車の行きかう音がする。 庭からはいろんな鳥の鳴き声もひんぱんに聴こえてくる。 雨どいを流れる雨音もうるさいほど。 カンカンという踏み切りの音、列車のゴトンゴトンと走る音。 決して静かと言えない。 むしろ、機密性の高いペアサッシで外界の音を遮断したマンションの方が静か かもしれない。 なのに、この不思議なほど、ゆるやかな静寂な気配は何だろう? 電話もネットも携帯もつながり、町の音もして、外界はすぐ側にあるのだけれど、 ここは頑丈なコンクリートにはない、やわらかな遮断があるような気がする。 マイナスイオンを発した緑の木々や葉、雨音などが両手でオブラートのように包みこみ、 やさしいバリアを張ってくれているような感じがする。 だから、どこかホッとするのだ。 玄関や仏様に飾る花は庭から摘めばいい、水も井戸水があるから買わなくていい。 都市の利便さとは違う、もっと大らかな便利さがここにはある。 二十代になるまでこの家に居たけど、こんな豊かさを子どもの頃は感じていなかった。 むしろ、考えていたのは脱出することばかり。 帰って来たのだろうか。 新しい家を見つけたのだろうか。 わたしの欲しかった何かが始まっている気がした。 未完につき続く |